冲方丁『天地明察』は『伊能忠敬測量隊』の流用


佐藤賢一先生のタイトルをパクってみた。

====単行本「天地明察」第12版P174L8より引用
 中間たちが距離を測るための間縄を張り巡らせ、一尺鎖をじゃらじゃら鳴らしながら観測器
具の設置場所に見当をつける。また従者たちがそれぞれ特異な道具を携え、準備にあたる。
 後世、彎窠羅針と呼ばれることになる、羅針盤を杖の先につけ、あらゆる傾斜面でも正確に
方角を測れるよう工夫した道具を複数用いて、方角誤差を修正する。十間ごとに梵天と呼ばれ
る紙切れを何枚もつけた竹竿を目印に立てる。小象限儀という、円を四分の一にした、四半円
形の測定具で値を出し、割円対数表という勾配を平面に置き換えるための算術表に照らし合わ
せ、勾配による誤差を修正する。【以下略】

間縄、一尺鎖、彎窠羅針、梵天、小象限儀、いずれも、地形を測る道具である。北極出地には不要である。勢い余ってパクリすぎである。特に、(明記すらしていない)参考文献が、内法一尺の鉄鎖彎窠羅針は伊能忠敬のオリジナルとしているのに、140年前に現存させてしまう強引さ。伊能忠敬がパクったとでも言いたいのだろうか?そもそも「彎窠羅針」なんて変な言葉、伊能忠敬関連文書にしか出てこない。一応、「後世~呼ばれることになる」と弱腰、「一尺鎖」という単語は造語(フィクション)の様だが。パクリ疑惑解消の布石か?「帰国子弟だから知りませんでした」といういつぞやの言い逃れはできない。

名称はどうあれ、140年も未来の品物が出てくる時点でアウトだ。既に都市伝説になっている、TVドラマ水戸黄門に腕時計|電柱|電車|スーツのおっさん・・・etc.etc.の世界だ。「後世F15と呼ばれることになる戦闘機が明治5年の東京の空を飛ぶ」という記述は、SF以外の何物でもない。これはこれで「あり」だけどね。「維新自衛隊」・・・思えば「戦国自衛隊」も角川だった。得意だなぁ角川。

それはさておき、移動用の中象限儀は、正確な子午線と水平・垂直が保たれていればよい。正確に子午線を出すには太陽の南中を観測しなければならないので、前日以前現地入りが鉄則だ。午後到着して段取りして観測する場合は羅針盤による簡易計測となる。彎窠羅針は精度10分(十分じゃないよ)なので、精度1分の中象限儀の調整には精度不足だ。簡易計測とはいえ、もうちょっと精度の高い大型の羅針盤を使おうよ。水平は「水盛り」、垂直は「下げ振り」で確保できる。江戸時代の町場の大工でもできる。ひょっとしたら象限儀自体に水を入れるための溝が掘ってあった可能性もある。大象限儀だとしても何日もかけて子午線と水平を念入りに調整するだけだ。土地は傾斜していないことに越したことはないが、万一傾斜していても建造物は水平・垂直に建てることができる。

梵天を立てて小象限儀で傾斜を測り割円(八線)対数表で平面に置き換えるという作業は、地図作成に必要なプロセスであって、象限儀設置には何の関係もない標高補正であれば、道中ずっと計測してこなければならない。現場に着いてあわてて計測しても、その場所の傾斜しかわからない。水平は水を張れば確保できる。斜めに建てて水平補正計算するバカはいない。

(6/12追記:北極出地に高度補正は不要。象限儀の子午線、水平、垂直の調整が正確なら、北極星の高度がその場所の緯度。)

春海一行は、地図も作っていた!という落ちかな?それにしては、道中だらだら歩いているだけだったよね。

実際、地理も測っている記述なのだが、
====単行本「天地明察」第12版P182L18より引用
 建部が言った通り、中間たちが率いる別の隊によって道中の距離が測定されながら移動が行われた。
====単行本「天地明察」第12版P189L2より引用
 春海たちは東海道を進み、浜松でいったん二隊にわかれて地理を測り誤差を出来る限り少な
くする努力が行われた。【云々】

本隊の14人の他に別働隊があったのか、本隊を分離したのかあやふやだが、やはり地図を作る話だ。距離測定の緯度、傾斜分の抽出データが天測データの補正に使えるほどの精度があったのかな?北極出地で各地の正確な緯度を測定し、地形・距離などの測量結果の誤差の補正を行うというなら話はわかる。天地明察ではなく本末転倒である。

ちなみに「割円(八線)対数表」はその名の通り「数表」であり、「算術表」などではない。どこにも「」は書かれていない。

映画でも豪華な測地ショウが観られるのかな?映画館で爆笑しているおやじがいたら、それは私です。不謹慎?

 

— posted by nitobe at 09:58 pm   commentComment [0] 

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