やまとうたは人のこゝろをたねとしてよろつの  ことのはとそなれりける世中にある人ことわさ  しけきものなれは心におもふことを見るものきく  ものにつけていひいたせるなり花になくうくひす  水にすむかはつのこゑをきけはいきとしいける  ものいつれかうたをよまさりけるちからをもいれ  すしてあめつちをうこかしめに見えぬおに神  をもあはれとおもはせおとこをむなのなかをも  」1ウ  やはらけたけきものゝふの心をもなくさむる  はうたなりこのうたあめつちのひらけはしま  りける時よりいてきにけり<あまのうきはしのしたにて               め神を神となりたまへる事をいへる  うた  なり>しかあれとも世につたはることはひさかた  のあめにしてはしたてるひめにはしまり<した                     てる  ひめとはあめわかみこのめ也せうとの神のかたちをかたにゝうつりてかゝや  くをよめるえひす哥なるへしこれらはもしのかすもさたまらす  うたのやうにも  あらぬことゝも也>あらかねのつちにしてはすさの  をのみことよりそおこりけるちはやふる神世には  」2オ  うたのもしもさたまらすすなほにして事  の心わきかたかりけらしひとの世となりてすさ  のをのみことよりそみそもしあまりひともし  はよみける<すさのをのみことはあまてるおほむ神のこのかみ也        女とすみたまはむとていつものくにゝ宮つくり  したまふ時にその所にやいろのくものたつを見てよみたまへる也  やくもたついつもやへかきつまこめにやへかきつくるそのやへかきを>  かくてそ花をめてとりをうらやみかすみをあ  はれひつゆをかなしふ心ことはおほくさま/\  になりにけるとをき所もいてたつあしもと  」2ウ  よりはしまりて年月をわたりたかき山も  ふもとのちりひちよりなりてあまくもたなひ  くまておひのほれることくにこのうたもかく  のことくなるへしなにはつのうたはみかとの  おほむはしめなり<おほさゝきのみかとのなにはつにて           みこときこえける時東宮をたかひに  ゆつりてくらゐにつきたまはて三とせになりにけれは王仁と  いふ人のいふかり思てよみてたてまつりけるうた也この花は梅の  はなをいふ  なるへし>あさか山のことはゝうねめのたは  ふれよりよみて<かつら木のおほきみをみちのおくへ          つかはしたりけるにくにのつかさ事  」3オ  おろそかなりとてまうけなとしたりけれとすさましかり  けれはうねめなりける女のかはらけとりてよめるなりこれ  にそおほきみの心  とけにけるあさか山かけさへ見ゆる山の井のあさくは人をおもふものかは>このふたうたはうたのちゝ  はゝのやうにてそ手ならふ人のはしめにも  しけるそも/\うたのさまむつなりからのうた  にもかくそあるへきそのむくさのひとつには  そへうたおほさゝきのみかとをそへたてまつれ  るうた   なにはつにさくやこの花ふゆこもり  」3ウ   いまはゝるへとさくやこのはなといへるなるへ  しふたつにはかそへうた   さく花におもひつくみのあちきなさ身に   いたつきのいるもしらすてといへるなるへし   <これはたゝ事にいひてものにたとへなともせぬもの也このうた    いかにいへるにかあらむその心えかたしいつゝにたゝこと   うたといへるなむこれ   にはかなふへき>  みつにはなすらへうた   きみにけさあしたのしものおきていなは   こひしきことにきえやわたらむといへるなるへし  」4オ   <これはものにもなすらへてそれかやうになむあるとや   うにいふ也この哥よくかなへりとも見えすたらちめの   おやのかふこのまゆこもりいふせくもあるかいもにあはすて   かやうなるやこれにはかなふへからむ>  よつにはたとへうた   わかこひはよむともつきしありそうみの   はまのまさこはよみつくすともといへるな  るへし<これはよろつのくさ木とりけたものにつけて心を      見するなりこのうたはかくれたる所なむなきされと    はしめのそへうたとおなしやうなれはすこしさまをかへ    たるなるへしすまのあまのしほやくけふり風をいたみ    おもはぬ方にたなひきにけりこの哥なとやかなふへからむ  」4ウ  いつゝにはたゝことうた   いつはりのなき世なりせはいかはかり人の   ことのはうれしからましといへるなるへし   <これはことのとゝのほりたゝしきをいふ也この哥の心さらに    かなはすとめうたとやいふへからむ山さくらあくまて   いろを見つる哉花ちるへくも   風ふかぬよに>  むつにはいはひうた   このとのはむへもとみけりさき草のみつは   よつはにとのつくりせりといへるなるへし  」5オ   <これは世をほめて神につくる也このうたいはひうたと    は見えすなむあるかすかのにわかなつみつゝよろつ   世をいはふ心は神そしるらむこれらやすこしかなふ   へからむおほよそむくさにわかれむ事はえあるましき事になむ>  今の世中いろにつき人の心花になりにける  よりあたなるうたはかなきことのみいてくれは  いろこのみのいへにむもれ木の人しれぬことゝ  なりてまめなるところには花すゝきほに  いたすへきことにもあらすなりにたりそのはしめを  」5ウ  おもへはかゝるへくなむあらぬいにしへの世ゝ  のみかと春の花のあした秋の月の夜こと  にさふらふ人/\をめしてことにつけつゝ  うたをたてまつらしめたまふあるは花を  そふとてたよりなき所にまとひあるは月  をおもふとてしるへなきやみにたとれる心/\を  見給てさかしをろかなりとしろしめしけむ  しかあるのみにあらすさゝれいしにたとへ  つくは山にかけてきみをねかひよろこひ  」6オ  身にすきたのしひ心にあまりふしのけふり  によそへて人をこひ松虫のねにともをしの  ひたかさこすみの江のまつもあひをひのや  うにおほえおとこ山のむかしをおもひいてゝ  をみなへしのひとゝきをくねるにもうたをいひ  てそなくさめける又春のあしたに花の  ちるを見秋のゆふくれにこのはのおつるをきゝ  あるはとしことにかゝみのかけに見ゆる雪と浪  とをなけき草のつゆ水のあわを見て  」6ウ  わか身をおとろきあるはきのふはさかえをこ  りて時をうしなひ世にわひしたしかりしも  うとくなりあるは松山の浪をかけ野なかの  水をくみ秋はきのしたはをなかめあかつ  きのしきのはねかきをかそへあるはくれ竹  のうきふしを人にいひよしの河をひきて  世中をうらみきつるに今はふしの山も煙  たゝすなりなからのはしもつくるなりときく人は  」7オ  うたにのみそ心をなくさめけるいにしへより  かくつたはるうちにもならの御時よりそひろ  まりにけるかのおほむ世やうたの心をしろ  めしたりけむかのおほむ時におほきみつの  くらゐかきのもとの人まろなむうたのひし  りなりけるこれはきみもひとも身をあはせ  たりといふなるへし秋のゆふへ龍田河になか  るゝもみちをはみかとのおほむめにゝしきと  」7ウ  見たまひ春のあしたよしのゝ山のさくらは  人まろか心にはくもかとのみなむおほえ  ける又山の辺のあかひとゝいふ人ありけり  うたにあやしくたへなりけり人まろは  あかひとかゝみにたゝむことかたくあか人は  人まろかしもにたゝむことかたくなむあ  りける<ならのみかとの御うたたつた河もみちみたれて      なかるめりわたらはにしきなかやたえなむ   人まろ梅花それとも見えす久方のあまきる雪のなへてふ   れゝはほの/\とあかしのうらのあさきりに嶋かくれ行舟をしそ思  」8オ   赤人春のゝにすみれつみにとこし我そのをなつかしみひと   夜ねにけるわかの浦にしほみちくれは方をなみあしへを   さしてたつ   なきわたる>  この人/\をゝきて又すくれたる人もくれ  竹の世ゝにきこ江かたいとのより/\にたえす  そありけるこれよりさきのうたをあつめてな  む万えうしふとなつけられたりけるこゝに  いにしへのことをもうたの心をもしれる人  」8ウ  わつかにひとりふたり也きしかあれとこれかれ  えたるところえぬところたかひになむある  かの御時よりこのかた年はもゝとせあまり世  はとつきになむなりにけるいにしへの事  をもうたをもしれる人よむ人おほからす  いまこのことをいふにつかさくらゐたかき  人をはたやすきやうなれはいれすそのほか  にちかき世にその名きこ江たる人はすなはち  」9オ  僧正遍昭はうたのさまはえたれともまこ  とすくなしたとへはゑにかけるをうなを  見ていたつらに心をうこかすかことし<あさみとり                    いとよりかけて   しらつゆをたまにもぬけるはるの柳かはちすはのにこり   にしまぬ心もてなにかはつゆをたまとあさむくさかの   にてむまよりおちてよめる名にめてゝおれるはかりそ   をみなへしわれおちにきと人にかたるな>  ありはらのなりひらはその心あまりてことは  たらすしほめる花のいろなくてにほひ  」9ウ  のこれるかことし<月やあらぬ春やむかしの春ならぬ           わか身ひとつはもとの身にして   おほかたは月をもめてしこれそこのつもれは人のおい   となるものねぬるよのゆめをはかなみまとろめは   いやはかなにもなり   まさるかな>ふむやのやすひてはことはゝ  たくみにてそのさま身におはすいはゝ  あき人のよきゝぬきたらむかことし<吹からに                   よもの草   木のしほるれはむへ山かせをあらしといふらむ深   草のみかとの御国忌に草ふかきかすみのたにゝかけかくし   てる日のくれし   けふにやはあらぬ>宇治山のそうきせむはことは  」10オ  かすかにしてはしめをはりたしかならす  いはゝ秋の月を見るにあかつきのくもに  あへるかことし<わかいほはみやこのたつみしかそすむ          世をうち山と人はいふなり>  よめるうたおほくきこえねはかれこれを  かよはしてよくしらすをのゝこまちはいに  しへのそとほりひめの流なりあはれなる  やうにてつよからすいはゝよきをうなの  なやめる所あるにゝたりつよからぬはをう  」10ウ  なのうたなれはなるへし<思つゝぬれはや人の              見えつらむゆめとしり   せはさめさらましをいろ見えてうつろふものは世中の   人の心の花にそありけるわひぬれは身をうきくさの   ねをたえてさそふ水あらはいなむとそ思そとほりひめ   のうたわかせこかくへきよひ也さゝかにのくものふるまひ   かねてし   るしも>おほとものくろぬしはそのさ  まいやしいはゝたきゝおへる山ひとの花  のかけにやすめるかことし<思いてゝこひしき時は               はつかりのなきてわたると   人はしらすやかゝみ山いさたちよりて見てゆかむ   としへぬる身はおいやしぬると>  」11オ  このほかの人/\その名きこゆる野辺にお  ふるかつらのはひゝろこりはやしにしけき  このはのことくにおほかれとうたとのみ思ひて  そのさましらぬなるへしかゝるにいますへ  らきのあめのしたしろしめすことよつ  の時こゝのかへりになむなりぬるあまねき  おほむうつくしみのなみやしまのほか  まてなかれひろきおほむめくみのかけつ  」11ウ  くは山のふもとよりもしけくおはしまして  よろつのまつりことをきこしめすいとま  もろ/\のことをすてたまはぬあまりにいに  しへのことをもわすれしふりにしことをも  おこしたまふとていまも見そなはしのちの  世にもつたはれとて延喜五年四月十八日に  大内記きのとものり御書のところのあつかり  きのつらゆきさきのかひのさう官おふし  」12オ  かうちのみつね右衛門の府生みふのたゝみね  らにおほせられて万えうしふにいらぬふ  るきうたみつからのをもたてまつらしめた  まひてなむそれかなかにむめをかさすより  はしめてほとゝきすをきゝもみちをおり  雪を見るにいたるまて又つるかめにつけて  きみをおもひ人をもいはひ秋はき夏  草を見てつまをこひあふさか山にいたりて  」12ウ  たむけをいのりあるは春夏秋冬にもいらぬ  くさ/\のうたをなむえらはせたまひける  すへて千うたはたまき名つけてこきむわか  しふといふかくこのたひあつめえらはれて  山した水のたえすはまのまさこのかすおほ  くつもりぬれはいまはあすかゝはのせに  なるうらみもきこ江すさゝれいしのいはほと  なるよろこひのみそあるへきそれまくら  」13オ  ことは春の花にほひすくなくしてむなし  き名のみ秋の夜のなかきをかこてれは  かつは人のみゝにおそりかつはうたの心に  はちおもへとたなひくゝものたちゐなくしか  のおきふしはつらゆきらかこの世におな  しくむまれてこのことの時にあへるをなむ  よろこひぬる人まろなくなりにたれと  うたのこととゝまれるかなたとひ時うつり  」13ウ  ことさりたのしひかなしひゆきかふともこの  うたのもしあるをやあをやきのいとたえす  まつのはのちりうせすしてまさきのかつらな  かくつたはりとりのあとひさしくとゝまれらは  うたのさまをもしりことの心をえたらむ  人はおほそらの月を見るかことくにいに  しへをあふきていまをこひさらめかも  」14オ