Title  グリーン・カード 79  緑の札 79  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十一月八日(土曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  夜明けの人生 五  Description  ジユンは絶叫した。 「冷靜な頭で考へて見ろ。君達は            ヽヽ 僅かな感情で爭つてゐるすきに、 敵は君達の權益を、生活を、否! 日本を奪つて終ふのだ! 考へて 見ろ! 己れ達の祖先は然える愛 國の血によつてこの日本を建設し た! その殉國の魂が----大和 魂が、もう君達の胸の奧から消 え失せたといふのか?!」  ジユンの言葉は火のやうに吐き 散らされた。今迄、ヂツと唇を噛 んで感情の渦を抑へてゐたアキラ は、不意に確りとソウタの手を握 りしめた。 「シラ!僅かな私情に囚はれて君 達を憎んでゐた僕の心は間違つて ゐた!今迄の僕を赦して呉れ給 へ。僕はあの無線電力會社を君達 の手に開放する!」  アキラの瞳はさん/\と燃え た。 「さうだ!」  默つて顏を伏せてゐるソウタに 代つて、ジユンは握られてゐる二 人の手を更に握つた。 「お互ひに一致協力!祖國のため に、今迄の感情の一切を拾てゝ、 行はう!」  ----その時。  大地と大空を震動して、怖ろし い爆音が人々の耳を刺した。 「あ!」  ジユンは卒倒せんばかりに驚愕 して窓ぎはに驅け寄つた。ジユン に續いて人々は彼の背後を追つ た。  窓を通して人々の眼に怖ろしい 光景が映つた。 「ざ、殘念だ!!無線電力會社がス パイの手で爆破された。」     ×  無線電力會社の爆破は人々の胸 に、更に深刻な傳統の血----大和 魂の國民精神を湧き立たせた。  莊重な永い沈默が續いた。 「諸君!」              ヽ  突然ジユンは人々に向つてか ヽ う叫んだ。 「怖ろしい魔手は、完全に僕達の 權益と生活を蹴り飛ばした!しか し、そのために僕達は、更に大き い心の眼醒めを與へられた。  今こそ僕達は完全に過去の權益 と感情を捨て去ることが出來たの だ、諸君!協力一致、健康な握手 から、ほんたうの平和と權益を生 み出さう!我等の科學者、 ハナ ド・アキラは更に偉大な無線電力 機を僕達のために提供して呉れる に違ひないのだ!さうして祖先の 地、日本に新しい繁榮を築く勝利 の日が來るのだ!」  ソウタが叫んだ。 「己れ達の血潮から祖先への信仰 と殉國の大和魂を奪つたキカイ の生活を叩き潰せ!さうして新し い大和民族のキカイの生活を建設 しよう!そのリーダーであるハナ ド・アキラを、あらためて己れ達 は讚美するのだ!」  アキラが答へた。 「ありがたう!僕は誓つて、諸君 の期待に酬いよう、僕には強い自 信がある!」 「ブラボー!!」 「ハナドアキラ、ブラボー!」 「大日本帝國萬歳!」  誰が歌ひ始めたか、莊重な國歌 「君が代」が涌然と歌ひ出された。 人々は口を揃へて高く/\歌つ た。  アキラはシノブと母をしつかり と抱へて、三人とも歌に合せて歌 つた。         ----終り---- ============================== 明日から----    ルンペン3  街の浮浪者    下村千秋作    大野隆徳畫  End  Data  トツプ見出し:   政友會の近畿大會   不景氣打開策に   内閣倒壞を叫ぶ   あつまる黨員六千餘名   第二會塲を設ける盛況  廣告:   養命酒 携帶用 (凡七日分) 一圓廿錢  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   發行:  昭和五年十一月八日(土曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 廣明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月11日  校正::   校正者: 大黒谷 千彌   校正日: 2003年09月18日    $Id: gc79.txt,v 1.1 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $