Title  グリーン・カード 78  緑の札 78  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十一月七日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  夜明けの人生 四  Description  タキ博士の言葉に寸分の狂ひは なかつた。博士が去つて間もなく シノブの意識は更生した。  瞳は輝いた。 「おゝ!」  アキラは思はずシノブの胸に雙 手を伸してぐツと、新しい歡喜の 力で抱きしめた。 「ハナド」            ヽヽヽ  アキラの首筋に、今迄だらりと 埀れてゐたシノブの手が卷き着い た。 「ハナド、あたしをどんな女に創 造した? あなたの好きなニツポ ン娘?!」 「そうです! 新しい人生に生き る貴女はニツポンの女性! 貴女 は一九八〇年の踊子ではありませ ん。ハナドの妻! やがてはハナ         ヽヽ ドの子の優しい、つつましい母と いふ名で貴女は呼ばれます!」 「嬉しい!」  シノブの唇は無意識にアキラ の唇に押し着けられた。初めて 彼等の愛と抱合は赦された。  ふ----とシノブの眼にセキの姿      ヽヽ が映つた。むつくりとシノブは身 を擡げた。 「ハナド、あの人は?」 「お母さまです!お母さまです。 しかもニツポンのお母さまになつ         ヽヽ て下さいました!つゝましく優し く人生の苦惱を子のために生きる        たゝへ2 ニツポンの母を讚美て下さい!」 「ま! あたしのお母さま!」  シノブはデスクから飛び降りて               ヽ セキの前に馳け寄つた。二人はわ ヽ けもなく抱き合つた。  ----と。  突然! 亂れた人の足音が、こ の研究室になだれ込んだ。勞働者 だ。その無數の眼は怒りと憎惡に 燃えてゐた。  無論指揮するものはシラ・ソウ タであつた。 「騒々しい! 何亊だ!?」  アキラはその眼を反射的に叱責 した。 「何んでもない、無線電力會社を 己れ達の手に返すのだ!」 「そうだ! 返せ!」 「己れ達の生活を返せ!」 「……………」  アキラは唇を噛んだまゝ、ぢツ と彼等を睨めてゐた。彼等のため に石を投げられた父の怨魂が、本 能的にアキラの神經を鋼鐵のやう      ヽヽヽ な冷たさにかためた。 「ハナド!」  ぢり!と又一歩、アキラに迫つ たシラの巨手は、不意に伸びて肩 先に落ちた。  慄えるやうな殺氣が空内を重く 暗く沈めたのだ。  ----この時。 「待て!!」  室内の空氣を割つて驅け込んだ ジユンが、狼の眼を潛つてシラの 巨手に卷き着いた。 「ハナド! シラ!き、君達の惡 夢はまだ醒めないといふのか!?、 ハナド!や、殺られたぞ! 無線             ヽヽ 電力會社のキカイの祕密をねらつ てゐる外國のスパイの魔手が、 あのミムラ頭取を殺つて終つたの だ!!」 「え!?」  驚きの聲はアキラとシラと同時 だつた。  End  Data  トツプ見出し:   親不知の斷崖で   急行列車顛落す   死傷者二十餘名を出す   原因は計畫的妨害  廣告:   毛髮若返り香油 ビタオール 定價一圓   目下賣出中 マルキン醤油  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十一月七日(金曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月11日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月18日    $Id: gc78.txt,v 1.2 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $