Title  グリーン・カード 68  緑の札 68  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月二十三日(木曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle 【鬪爭】  爭鬪 四  Description 「ハナド、そんなことがほんとう に成功したと考へてもよいことか しら?」 「よいことです! 僕は貴女がと ても考へることさへしなかつたほ どの、怖ろしい仕亊を完成してゐ るではありませんか、つまり、こ の獸のやうな人生を訂正するこ とに成功しようとしてゐるのです !」 「あたし達の人生を訂正する! ハナド、あなた、そんなことを眞 面目に考へてる?」 「考へています! さうして可能 を信じてゐます! それは穢れ切 つた吾々の靈を奪取することによ つて、僕は科學の力を信じるので す! 信じて下さい! 人間は餘 りに醜い獸の世界です、吾々は 獸であつてはいけない! それを 考へると僕は母に感じると同じ憎 惡を、この人生に感ぜずにはをら れません!」 「でも、その可能を信じてよい何 かの證しが……」 「あります! あります! 僕は 完全にその證しを、----猿の生靈 を奪取して、新しい生靈を創造す ることに成功したのです!」 「ほんと!?」  シノブは飛び上つて、アキラの 肩を何度となく叩いた。アキラは 苦笑しながらもそれを甘受した。 「しかし、貴女はそれを喜んでく れますか?」 「………」  默つて彼女は微笑した。 「だが----」  勢ひ込んでこゝまで語つて來た アキラは、何か思ひ出して急にし よげ返つた。 「どうしたの?」  シノブが心配して聞いた。 「僕は成功した。しかしそれは猿 の靈ではありませんか、僕は人間 の靈に成切しなくてはならないの です!」 「ぢや、ハナド、あなた、それを 早くなさいましよ」 「やりたいのです! だが----」  かういつて、アキラは妙に唇を 舐めずつた。 「だが----? 何かそのことにつ いてハナドを苦しめるやうなこと がある?」 「無い筈のものが、あるやうにな つてきたのです!」 「へん----ね?」 「まつたく! へんといふよりも 慮外です! あの妹が自殺するな んて、僕にはどう考へても慮外な ことです、僕はあれ程、言葉を分 解して説明した靈奪機の原理を怖 れ疑つて自殺を決行した妹の心が むしろ愚かしいものだといひたい のです、思ふと腹が立ちます! あの妹さへ生きてゐてくれたら、 既に僕の仕亊は完成したといひ切 ることが出來ませう! シノブさ ん、僕にはそれが殘念でなりませ ん。」  心持ち----アキラの唇は慄へ た。シノブの險わしさは次第に、 彼への慰めに滑つた。 「ハナド」  極めて、彼女のその言葉は優し かつた。 「どうして、あの妹さんがあなた の仕亊にとつて、それ程大切な方 だつたのかしら、ね?」 「妹の肉體は僕の仕亊の驗しであ つたからです!」  アキラは苦がく唇をゆがめた。  極北の空に又白鳥が群れた。  End  Data  トツプ見出し:   けふ輝やく天皇日和   海軍大觀艦式の前奏曲   天機うるはしく   聖上、神戸御入港   堂々たる御召艦霧島の雄姿  廣告:   かつけ アンチベリベリン   膓内強力殺菌新藥 ワカ末   專賣特許 煮沸免疫元 コクチゲン  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月二十三日(木曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月05日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc68.txt,v 1.4 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $