Title  グリーン・カード 66  緑の札 66  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年十月二十一日(火曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  鬪爭 二  Description  ミムラ頭取の寢室----。  〃眞夜中〃  寢室とは思へない程の宏壯な部 屋である。光りが殺されてゐるた めに室内は仄暗く、多分は贅美を 極めてゐるのであらう……  一筋、高い窓から月光が射し込 んでゐる。その光りは恰度、室の 中央、べツドの上に落ちて横臥し てゐるミムラ頭取の上半身を映し てゐる。  不意に室内の靜寂は破られた。 仄暗い闇を割く足音が、高い窓の      ヽヽ 一部から、すす----と滑り込んで           こだま2 ゐるのが、その靜寂に山彦した。 「誰れだ!?」  何といふミムラ頭取の鋭敏な神 經であらうか----。彼はもう、そ のどよめきを知つてゐたのだ。 「靜になさい!」  突如!黒い魔者のやうな影が、 鋭いミムラ頭取の言葉に應へた。 「……!?」  がば!とミムラ頭取は跳ね上つ た。その手には、無論精鋭な電銃 が握られてゐた。  疾風のやうに、影は何の怖れも なく彼のべツドに駈け寄つた。 「ミムラ頭取!電銃をお離しなさ い!それと同じものが私の手にも あるのです」  ミムラ頭取は答へなかつた。  影は一歩、彼に迫つた。 「今夜は貴方が柔順に私の命令に 服從して下さい、それが貴方の御 利益です!」 「な、なにを命令するといふの か」 「無線電力輸送會社の機關室とキ カイの設計圖を私に與へて下され ばよいのです!」 「き、君は外國人だな!?しかもア ジヤ人ではあるまい!?」  殆ど血叫びに等しい聲でミムラ 頭取は叫んだ。 「さうです!そのために私は貴方 に命令するのです!もし貴方が一 週間内に私の命令に從はない時は 貴方の生命と共にあの無線電力會 社は爆破されるまでのことです!! お忘れのないやうに、では、さよ うなら……」  再び、疾風のやうな影の姿は、 怒りと恐怖に怯えてゐるミムラ頭 取を室内に殘して、仄暗い闇を割 きながら消え去つた。 「う!汝!」  やつと激情を抑へることの出來 たミムラ頭取は、兩手を握りしめ て闇を撲つた。 「な、なにが爆破だ!己れはこの 全世界に命令するものゝ一人では ないか!己れに命令するものは赦 せない!!」  彼は更に、闇を撲つて怒號し た。  End  Data  トツプ見出し:   國調成績   東京市の人口   二百五萬一千人   中間調査より七萬人増加  廣告:   通俗 臨床和漢醫方 定價 二圓也   家庭雜誌 通俗醫學 定價 一册卅五錢   ラヂウム温灸器 金拾參圓也   底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年十月二十一日(火曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年09月04日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc66.txt,v 1.4 2005/10/25 04:35:52 nitobe Exp $