Title  グリーン・カード 47  緑の札 47  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月二十四日(水曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  靈奪機 六  Description  アキラの怖ろしい妄想が次第に その影を大きくすると、彼の仕亊 に對する信念が火のやうに燃え立 つた。  神を否定し、人間の智能が大地     クリヱーター3 の新しい創造主であることを信じ た現在のアキラには、無論、靈の 創造が不可能であらうとは信じな い。彼が人間の全能を自らの仕亊     ヽヽ にかけてさう信じた。  またそれは、母の復活であり、 盲目になつた妹の復活である。 「タズ、眼のことなんか案じるこ とはないよ、兄さんの仕亊さへ完 成すれば救はれるのだ。」 「え。」  その言葉はたしかに彼女の胸底 を叩いたらしい。 「今に兄さんの仕亊が完成すれば【、】 あツ!と世間の奴等が怖れるのだ【。】 兄さんは人間の靈を奪つて、新し い靈を創造するキカイの發案に沒 頭してゐる。このキカイの力で光 を失つたその眼が、再び光に接す ることが出來たとすればお前だつ て喜んで呉れるだらう!」 「兄さん!」  意外にその言葉は冷たかつた。 「兄さんは、その成功を信じてゐ らつしやいます?」 「信じてゐる!信じてゐなけれ ば、兄さんは自殺するだらう。あ の母の肉體に巣くつて離れない惡 魔の靈を、兄さんはキカイの力で 奪ひ取るのだ!さうして母の肉體 に、兄さんが創造した美しい優し い母性の靈を注ぎ込むのだ!お前 にも優しい母であるやうに。」  彼はべツドの端をポン!と叩い た。その手を確り握つたのはタ ズである。 「兄さん!」  その聲は涙ぐんでゐた。 「そ、そんな怖ろしいことは止め て下さい! 兄さんは罰しられま す!きつと罰しられます!人間の 靈を人間が弄ぶなんて、赦され ないことです、靈は絶對なもの! 神のもの!創造主のもので御座い ます!!」  懸命に叫んだ。おそらくその叫 びは神に近いものであつた。それ はまた彼女が生涯でたゞ一度叫ば ねばならない叫びであつたかも知 れない。  しかし、その叫びをアキラは嗤 つた。 「お前には解らない。お前はたゞ        【屋】 温順なしいこの部室の主人公であ   ヽヽ ればよいのだ。神だなんて、創造 主だなんて、そんなものがあるも のか。地上を支配するもの、世界 を支配するものは人間だ。」 「兄さん、あたしは悲しい!あた しは皆に裏切られてゆく……」  神を信じ、創造主を信じた彼女 の心に、それは悲しい出來ごとで あつたかも知れない。 「では、永遠の盲目であつてもお 前は悔いないといふのか?」 「ええ、あたし、ちつとも悔いま せん!」 「あの母を?」 「お母さまも赦します………。」 「何故赦す?」 「お母さまがもしほんとうの惡魔 なら、お母さまは滅びます、お母 さまを裁くものは絶對の權能を保 つ創造主で御座います!」  彼は立上つた。さうした妹との 會話が、今の彼には堪へられなか つた。 「兄さん!」  それを慌てゝとめたのがタズで ある。 「何處へいらつしやいます?」 「研究室だ!」 「では----やつぱり」 「さうだ、やつぱりだ!」       【屋】  慌てゝ彼は部室を去つた。彼女 はべツドの上で慟哭した。  End  Data  トツプ見出し:   郵貯利下げの勅令   けふ公布さる   六厘引下げ十月一日から實施   定例閣議で正式決定  廣告:   淋疾高貴藥 マイソールサンタル 試用瓶 金參圓   世界中の家庭藥 メンソレータム 價 二十五錢   アイスクリーム製菓及飮料水用 食用香料 試用瓶金五拾錢  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月二十四日(水曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月21日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年09月07日    $Id: gc47.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $