Title  グリーン・カード 44  緑の札 44  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月二十日(土曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  靈奪機 三  Description 「しかし----」  アキラはそれを反撃した。 「人生は勞働であらうか?勞働を 強ひられねば、人間は生きてゆけ ないといふのであらうか?人生と いふものが、さうであるとすれば 地上は樂土でなくて地獄だ!人間 の勞働に代るキカイの發明は成程 人間の勞働を盜奪した、けれ共… …」 「理論は止さう!」  ソウタは永いアキラの理論上の 説伏を峻拒した。 「と----僕を訪ねた目的は?」 「二つある!」 「いつて見給へ。」 「己れ達の生活のために、この研 究所を叩き潰すことに同意するこ とだ!」 「さうして?」 「ミムラ會長が握つてゐる無線電 力の權利を己れ達に與へることだ !」 「二つとはそれか?」 「さうだ!」 「出來ない!」 「出來ない!?何故出來ないのだ? 君は今も己れにいつたではないか 人間生活の樂土を建設するために キカイの發明を續ける!あれは皆 僞言であつたのか?」 「無線電力の權利を君達の手に與 へれば、人間生活の樂土が建設さ れるとでもいふのだね?」 「さういふ結果になるかも知れな い。でなければ、君はあのキカイ の發明によつて、何萬、何十萬と いふ人間の勞働を----生活を奪ふ ことになるのだ!」 「その話はミムラ氏に對するの話 ではないか、僕は社會亊業家では ない、僕は一個の科學者に過ぎな いのだ。社會亊業家としてのミム ラ氏はそれを考へるであらう… …。」 「君は又、怖ろしいキカイの研究 を始めてゐるのだらう?」 「始めてゐる。」 「どこまで續けてゆくつもりか ?」 「僕には一つの目的がある、その 目的の遂行される日までは、僕は この研究所を捨てないのだ!」  アキラは強くデスクを叩いた、 同時にソウタは、その叩いたデス クの上に、がちや!とポケツト用 の殺人放電銃を投げつけたのだ。 瞬間、アキラの頬の血がさつと蒼 白く走つた。 「ハヽヽ」  ソウタは輕快に喘つたのであ る。 「安心したまへ、己れは君を殺さ うとは言はない、しかし、君は己 れ達の意志に反逆して、一部の人 の利益のために此の研究所を護る といふなら、これと寸分違はない キカイが君の生命に放射されるの だ。既に君の生命の前に、此のキ カイが、何千、何萬と向けられて ゐることを、君のために己れは忠 言してやりたい。」  ヽヽ  かう言つてソウタは立ち上つた【。】            ヽヽヽ 彼はその電銃をズボンのかくしに さし込むと、狂つたやうにアキラ の腕を握つたのだ。 「キカイのアイドルよ、では健在 に……」  ソウ夕は力限りにアキラの腕を 握り占めて、ふ!と消えるやうに 研究室を去つた。  アキラは冷やかに後姿を見送つ た。  〃十年前、屍に石を投げた勞 働者----。〃  アキラの顏に凄い微笑みが湧い た。その微笑みは資本、勞働の鬪 爭に投げる魔神の微笑みのやうで あつた。  End  Data  トツプ見出し:   張學良氏の一存で   斷然南方に加擔か   舊派の出兵尚早論を抑へて   奉天派の急角度轉換  廣告:   主婦之友 十月號 金六拾錢(附録とも)   小兒良藥 ヒヤ竒應丸 金二十錢ヨリ  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月二十日(土曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月19日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月27日  $Id: gc44.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $