Title  グリーン・カード 43  緑の札 43  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月十九日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  靈奪機 二  Description  べツドから立ち上つたアキラは 重い石のやうな頭を抑へて、デス クの前に身を運んだ。この時劇し いべルが鳴り響いたのだ。  見ると、扉が開いて訪問者の姿  スクリーン3 が反映幕に映つてゐる。彼はその 男の顏をぢつと見た。だが、その 男の顏に彼の記憶が招かれなかつ たのだ。  記憶のない男----。從つてこの 男の目的は解らない。  〃心の轉換!〃  即座に彼の好奇心が動いた。彼 は立ち上つて微妙な人間の神經に 支配されながら、應答のボ夕ンを 押したのだ。  間もなく----  その男は研究室に現はれた。年 齡はまだ三十に足りない。  その眼は怒つたライオンの眼を 思はせる。  その鼻は血肉を求める狼の鼻 だ。  その唇は、吠える狂犬を思は せた。  若者は無遠慮に、づか/\とデ スクの前に近寄つたのである。彼 はアキラに對して目禮だけは二度 繰返した。 「お掛け。」  アキラは若者に對して片方の椅 子を指示した。若者は默つて指示 された椅子に鋭い眼を落したゞ けで、座を占めようとはしなかつ た。 「君はハナド・アキラか?」  若者の眼は聲と共に光つたので ある。 「左樣、僕はハナド・アキラであ る、君は----?」  一葉の名刺が若者の手から、デ      ヽヽ スクの上にこぼされた。それには 「勞働救濟會、シラ・ソウタ」と書 かれてある。  アキラはいつか無線電力輸送機 の完成を妨害したストライキの煽 動者を思ひ出した。 「この通り僕は君の仕亊を敵視す る一人であるが……」 「何故、僕の仕亊を敵視する?君 は?」 「何故?解つてゐるではないか ……?」 「いや、解らない!」    レーボア・マーケツト4 「君は勞働市塲を知らないのだ な?まだ、あの地下街の廣揚にど んなことが繰返されてゐるかを知 らないのだな。」 「それが僕の仕亊と、何かの關係 をもつてゐるといふのか。」 「もつてゐるどころではない!君 の仕亊は、あの勞働市塲を創つた のだ!君の仕亊はおびたゞしい乞 食をつくつたのだ!」 「…………」  アキラは沈默した。その沈默に 若者の憎惡が刺されたのである。 「君がこの研究室から創り出す怖 ろしいキカイは、人間の勞働を人 間の生活を奪ひ去るのだ。君のキ カイは勞働者の仇敵ではないか。」  若者は叫んだ。  アキラは靜かにその血叫びを撫 でたのである。 「僕のキカイが人間の勞働を盜奪 する?それが何故惡いのだらう。 半世紀の社會を見給へ、人間はど れほど虐使されてゐたか。僕はそ れを救つたのだ。人間がキカイを 虐使する時代!人間の勞働が要求 されない時代!僕はこの時代を、 決して惡いとは思はない!」 「駄目だ!それは片面的な理論に 過ぎない、それにしては、人間の 生活をどうする!!勞働の賃金によ つて支へていた貧しい人間の生活 をどうする!?」  End  Data  トツプ見出し:   一段落の海軍條約審査   上奏文のなかに   條件はつけまい   樞府の見解を表明するだけで   政府側はなほ警戒  廣告:   婦女界 十月号 別册附録共 六十錢   危險な子供の かぜねつ 小兒藥王 オイン  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月十九日(金曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月18日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月27日    $Id: gc43.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $