Title  グリーン・カード 30  緑の札 20  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年九月三日(水曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  悲しき饗宴 四  Description  その翌日からアキラは工塲へ通 つた。信用している三人の技師を 相手に、一日中祕密工塲に立てこ もつた。  仕亊は着々と進行して行つたけ れども、ミムラ頭取と約束した九 月五日は、その完成を待たずに來 てしまつた。 「完成することはきまつてゐるの だ、別に多數の人に迷惑をかけて 宴會を延期することもあるまい」  ヒカルが祝宴の延期をしたらど うかとたづねたとき、アキラは無 頓着にこう答へた。  ----でアキラの發明完成祝賀會 は、始めの豫定通り、九月五日の 晩、ホテル・アジヤで開催され た。  × ホテル・アジヤ----。  光の家!享樂人の夜!。  ホテル・アジヤは輝かしい。踊              ヽヽ つてゐる。醉つてゐる。夜をこめ ヽ てホテル・アジヤは浮かれ廻る。 時計の針が一分を刻むごとに、照 明燈がホテル・アジヤの化粧を變 へるのだ。  グリーン!。ガンボージ!。レ ツド!。コバルト!。カーネーシ ョン!。  なんといふ眼まぐるしさであら う。その五色の光りを割いて、人 人はこの華美な建物の中に吸はれ て行く----。  〃HOTEL AZIYA〃  屋上に飛行機の着留所が設けら れてある。光りの帶がすーと此の 着留所で停止した。  飛行機だ!。  乘客が黒豆のように屋上に吐 きだされてゐる。  ヱレベーターの活動が始まつた【。】 上へ----、下へ----。  〃ホテル・アジヤはまるでキカ イだ!〃  黒豆のような乘客が、見る/\ 間に、建物の内部へ吸はれてゆく のがキカイ的である。  × 十階----大ホール。  光りと色彩----こゝは湖の底を 思はせる。室内のおびたゞしい男             ヽヽヽ 女が、まるで海草のようにゆらめ いてゐるのだ!。  ホールの入口にこんなビラが掲 示されてゐる。  HANADO-AKIRA,  SYUKUEN-KAIZYO  ハナド・アキラ祝宴會塲。さす がに商工都市の巨頭連が主催する 祝宴會だ。まことにその會塲は、 黄金萬能の社會を如實に語つてゐ るではないか----。  黄金萬能時代の誇りと美の爛 熟。極致である。  ボーイがこゝでは人造人間でし かない、次から次へ入つて來る人 を待合室に案内する。  ミムラ頭取の首唱は日本の殊に 關西のあらゆる財界名士をこゝに 網羅してゐた。  人々は今夜の主客がアキラの偉 大な發明をいろ/\と評判した。 「誰がこのキカイの權利を得る か、といふことがわれ/\の最も 興味を惹くところですね」 「本當にさうです。が、さういつ てゐるあなた方など、すでに大活 動をやつてるんぢやないですか」 「まさか、ハヽヽヽ」  つと、人々は話をやめた。  アキラが入つて來たからだつ た。美しい女性を連れて----。  End  Data  トツプ見出し:   預金部貸出利率   愈よ引下げに決す   据置貯金利子も六厘方   藏相遞相諒解を求む  廣告:   かつけ アンチベリベリン   膓内強力殺菌新藥 ワカ末   三ツ星 青冩眞 感光紙   わきが 藥化學療法無代呈す   ほしとり目藥   婦人病新藥 オーレイン   三星製圖ゑのぐ   木工ミシン機 釘吉商店  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年九月三日(水曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年08月05日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月20日  $Id: gc30.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $