Title  グリーン・カード 22  緑の札 22  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月二十四日(日曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  母と妹 三  Description  さすがに激情の溢れてくるの を、セキはどうすることも出來な かつたのだ。冷靜でスマートで大 膽でなければならない大亊業家の 定則から、女性といふ一點の汚點 が、此の定則を亂した。 「なる程!」  トヤマはあらためてパイプを咥 へた。 「母が子を支配する、一應は御尤 な御言葉です。ではどうでせう、 ハナドさん、一つお電話でゝもア キラにその母としての意志をお傳 下さつては!」 「有難う。では折角のお言葉を無 にするのも----なんですから、妾 が貴方の前で、アキラの意志をお 傳へすることに致しませう……」  かういつてセキはデスクの上の テレホンをとりあげた、ニヤリと 笑つたのトヤマである。  ×アキラの研究室----。  アキラは外出の用意を始めてゐ る。下男の老僕がそれを手傳つて ゐる。  殆どその用意を濟ませたころに デスクのテレホンが、受聲のべル をけたゝましく叩いた。  老僕は驅け寄つてテレホンに向 つた。老僕の耳にセキの聲が通じ たのだ。  老僕はアキラに向つて丁寧にい つた。 「あの----航空會社の社長、いえ、 お母さまからで御座います」 「母?----母?あ、母か----。」  その言葉を老僕が不審に思つて ゐるらしい。その不審さに包まれ ながら、滿面に微笑を刻んでアキ ラはテレホンを握つた。 「ええ、僕、アキラです、え? キ カイの權利のことについて? 僕 に宣言せよとおつしやるのですか ? だが、それは今申し上げるこ とは出來ません、九月五日、祝宴 の席上で發表する約束です。---- さうです僕は、これから外出した いと思つてゐます、え? いゝえ ? 誰にも會ひに行くのではあり ません、僕はこれから妹に會ひに 行くのです、え? ミムラ頭取に ----?そんな話はミムラ頭取から 承つたことがありましたが、何の 約束も交はしたものではありませ ん、そのお話は、お母さまに會つ た上でお母さまが、僕の要求を容 れて下さるなら、僕はお母さまの 要求に應じませう! いゝえ、そ の要求も今は申し上げられませ ん、すべてはお會ひした上のこと で御座います、それまでは、無論 キカイの話は誰にもしない決心で す、では五日の晩お會ひした時に ……え? まだ何か----?はあ、 そのことですか、よく承知してを ります、が、僕は貴女の子である と同時に自殺した父の子である       ヽヽ といふこともよく承知してをりま す。もう理論は止して下さい!  理論はお會ひした上のことではあ りませんか、それよりも僕は早く 妹に會ひたいのです、話をきりま す。さよなら……。」  テレホンから離れて、アキうは ヽヽヽヽ ぼんやりと窓を見た。  父なる人。母なる人。幻想が走       ヽヽヽヽ る。窓の外にきらめく無數の星を 綴つてアキラの幻想が走る。  その折角の窓を、グリン色のカ ーテンが老僕の指先で遮つた。 「今夜はおそくなるかも知れない」  アキラはかういひながらデスク の前を離れた。彼の胸に抱へられ たのは、九月五日と記した小箱で ある----。  End  Data  トツプ見出し:  廣告:  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月二十四日(日曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年07月30日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月02日  $Id: gc22.txt,v 1.8 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $