Title  グリーン・カード 20  緑の札 20  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月二十二日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  母と妹 一  Description  ×太平洋航空會社社長室----。  壯麗な一空----。驚くほど精巧 な掃空機が備へられ、太陽光線の 洗光機が一點の影をさへ奪つてゐ る。鋭い眼のやうな金庫があり、 トカゲの皮で造られた自動椅子の 前には、巨大な動物の骨で造られ たデスクが置かれてある。  自動氣流報示機の針は、刻々に 太平洋上の氣流を示し、受聲器の ラツパは頻りに亊務の報告を始め【、】 デスクの上の送聲器からは、命令 が飛び、警先が走る----。  グラスのドアーの外では幾十人 かの面會人が、その順番の來るの を待ち、太平洋上を飛行する旅客 機から發信する電信記號は受信機 の告示幕で明減する。     【屋】     【屋】  科學の部室、黄金萬能の部室。     ヽヽヽヽ【屋】 興奮煙のみなぎる部室----。こゝ は太平洋航空會社の社長室であ る。  多感情熱の科學者、ハナド・ア キラの母であるセキが、女社長と して、限りない誇りと、限りない 物質への欲望をキカイ化するこの 一室には、氷のやうな策智と、鐵           ヽヽ のやうな神經の交錯のほか、凡て はキカイの活躍だ!        【屋】  〃哀愁のない部室! 人間的な      【屋】 哄笑のない部室! 人生の感傷を     【屋】 失くした部室----。〃  こゝに積まれてゐる人生は、女 性が男性への宣戰であり、征服で ある。永い幾千年、男性のために 征服された女性が、こゝでは素晴 らしい勝利の進軍を續けてゐる。  デスクの前に王者の如く坐つて ゐるセキの姿は、さながら女人權 勢の化身を思はせる。  〃彼女の眼に使役される男性、 彼女の眼に面接を與へられる男性 の凡ては、奴隸だ!〃  彼女の眼に支配さ山る側近者の ヽヽ めまぐるしい活動。それが、瞳の 動きに停止され、活動する。既に 彼等の在在も、彼女の前にはキカ イでしかないのだ!  まことに女人天下の光景であ る。  次々に面會人は現はれる。彼等 も亦、彼女の前に奴隸たらんこと を甘受せんとする人々だ!  〃太平洋航空會社。それは尖鋭 な科學の世界、爛熟した物質萬能 社會に君臨する女人權勢の王城で ある!〃  突然、彼女の前に、奴隸たるこ とを甘受しない一人の男が現はれ た。  それはこの商工都市の地下街を 支配する----地下街經營會社の支 配人トヤマ・ハジメである。  スモール・トヤマと呼ばれる此        ヽヽヽ 男の體躯は甚だふるはない。し かし、彼の眼は、彼の唇は、尖 鋭なキカイを思はせる!。キカイ のやうな冷たさと、鐵のやうな神 經は、決して彼女に劣るものでは ない。  トヤマを迎へたセキは、初めて にツとその顏に微笑を見せた。仄 かにその微笑から、女であること の本能が走つたのだ。 「暫らくでした」  トヤマはゆつたりと卜カゲの皮      ヽ で造られたく形の椅子の深いクツ ションに腰部を埋めて興春煙を吐 き始めた。 「どちらへか----」  鼻眼鏡の奧で、セキも大亊業家 らしい「愛想」を見せたのである。  End  Data  トツプ見出し:   國家賠償法案を   愈よ來議會に提出   定例次官會議で小原次官が説明   賠償額は一日五圓以内  廣告:   婦人世界 九月號 五十錢   脚氣に ネオ クライヱキス  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月二十二日(金曜日) 第四版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年7月28日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年07月31日  $Id: gc20.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $