Title  グリーン・カード 16  緑の札 16  ----時代----五十年後----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月八日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  二つの申出 一  Description  私設テレビジヨンのスクリーン には玄關に立つてゐる來訪者の姿 が現はれてゐる。アキラは應諾の べルを押した。  しばらく----部屋の扉をあけて その客人が現はれた。  大きな男である。老人のやうで もあり、若ものゝやうでもある紳 士はさつきスクリーンに映つた男 だ。  二人は近づいて握手した。 「しばらく、お邪魔ぢやないかね、 ハナド」 「いゝえ。もうスツカリ片附いて るんです」 「いや、それはよく承知してゐ る。ところで早速だが實驗の日は きまつたかね」 「それも大體きまりました。近日 中に實物がスツカリ揃つて出來上 ることになつてゐるんです、實驗 は來月上旬になるでせう----」 「無論確信はあるわけだね」 「大丈夫です」  アキラはいさゝかの躊躇もなく 答へた。  巨大な男は滿足氣にうなづい た。 「ついては君の發明の成功祝ひを やりたいと思ふんだがね。イヤ、 君の氣質はよく知つてゐる。それ を喜ぶやうな人でないことはよく 知つてゐるが、今度の發明は無論 君の成功であると同時にわが産業 界、延いては日本國の成功といは なければならない。だから日本の ためにこの發明の完成を祝福する といふ意味を兼ねて、この偉大な る發明者であるハナドの祝賀會を 開きたいといふことは、決して僕 個人の希望ではなく、社會各階級 を通じて有識者一般の熱望すると ころなんだ。で----」 「ちよつと待つて下さい。お話は よく解りましたが、矢張り私は御 辭退申しませう。イヤ決して謙遜 してるんぢやないんです。僕だつ て今度の發明に就いては十分の自 信と誇りを感じてゐますが、とに かくさういふことは僕は餘り好ま ないんですから」 「イヤそれはよく承知してゐる。 しかし僕達の熱望も容れて貰ひた いと思ふが----」 「御好意は受けますが、そのため に主賓である僕が好まないことま で忍ばねばならぬとなると、却つ て有難迷惑ですね」 「さういはれると----」  當惑した巨大な紳士はポケツト から奇妙な型をした喫煙管をとり 出して火をつけた。  仄かに黄色い煙が一筋ゆつたり と立ち昇る----これは煙草ではな い。人間の老衰を防ぐ興奮煙だ。  科學の青春----人間の力は永遠 の青春を發見した。いまこの興奮 煙を喫うてゐる紳士が老人のやう でありながらその顏面に青春が漲 つてゐるのは全くこのおかげだ。 「しかし----」  となほあきらめかねて紳士はい つた。 「君のお母さんも非常に熱心に今       ヽヽヽヽ 度の祝賀會のあつせんをしてゐら れるんだが----」 「おつかさんが?----」  アキラの聲はむしろ叫んでゐ た。「ミムラ頭取、お母さんも出 席するといふんですか」 「さうだよ」  ミムラ頭取はアキラの態度が急 に變つたので、ちよつと面喰らつ て、興奮煙を口から離した。 「このミムラと、ハナドのお母さ んの二人が主催者代表になつてゐ るんだ」 「お母さんが主催者に----」  アキラはヂツとみつめた。父の 冩眞をみつめた。 「ミムラ頭取、承知しました。僕 は喜んでその祝賀會へ出席させて いたゞきませう」  しばらくしてハツキリと答へ た。  End  Data  トツプ見出し:   共産軍の蹂躙十日----   廢墟のごとき長沙   今なほ街上に死軆山積   何鍵軍入城後の長沙第一電  廣告:   シバニ純石鹸  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月八日(金曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年7月24日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年07月31日  $Id: gc16.txt,v 1.6 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $