Title  グリーン・カード 15  緑の札 15  ----五十年後の社會----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月七日(木曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle  甦る呪れの日 五  Description  遺書はなほつゞいてゐる。 〃わしはお前達のやうに、立派な 病院の一室で、金のみに動く人達           ヽヽ から、金次第の看護をうけたこと は一度もなかつた。しかし、わし は夜もすがら、母の手に抱かれて、 母の涙と、母の甘い子守唄とに幾 夜かを過ごしたあの記憶を忘れな いのだ。  母!それは金錢で計る義務の 言葉ではない。義務は愛ではな い。愛は物質ではないのだ!け れども不幸にしてお前達は、愛で ない義務の中で育てられ、お前達 の人間愛は物質で計られてゐる。  お前達よ、わしはお前達が母の 子でなくわしの子であると今も信 じてゐる。この信じてゐるわしの 心が自殺した後もお前達の心の中 で永遠に生きることを約束する【。】  お前達はお前達の母に對して何 を感じるか。  お前達の母はお前達の前で父な るわしの自殺を嗤ふに達ひない。  お前達はその母と共にこの父な るわしを嗤ふことが出來るであら うか----。  わしは今も勝利を祈る。お前達 の心に生きるわしの魂の更生が 妻に對して勝利であるやうに祈ら れる。        自殺する父より   子等へ         〃  ヽヽヽヽ  ごうぜんと再び銃聲が所長室を 漂はせた。  九月五日のカレンダー!その上 にぽと!ぽと!と血潮が落ちる。  物質文明が人間に對して要求す る生命の血潮だ!  その血潮の上に人生の訂正は遂 行されるであらうか。  アキラの研究室に戻る----。 「お父さん!」  アキラはその遺書をかき抱いて 高く叫んだ。 「あなたは生きてゐらつしやいま す!このアキラの血潮の中に、あ なたはたしかに生きてゐらつしや いました!今までに私が完成した 數々のキカイは、あなたの妻に、 私の母に勝つことが出來なかつた のを、あなたは歎いてゐて下さい ますな!今こそ私が、否え!お父 さんがあの女性を征服することが できるのです。母はたしかに物質 文明が生んだ人造人間です。キカ イです。キカイを征服するもの は、やはりキカイであらねばなり ません、私は今、そのキカイを完 成したのでございます。九月五日 といふこのカレンダーにわたし達 が勝つたといふ文字を刻み込むの は、もう間もないことでございま す!」  かう----掲げられた冩眞に向つ てアキラは叫んだ。  そして少時デスクに顏を埋めて むせんでゐたが、間もなく十分に 泣いてしまつたと見え、キツとな つて顏を上げた。  アキラの瞳に光る涙、----彼の 憂鬱は、このとき始めて消えたか と見えた。  アキラは肴望に燃えるやうに感 じた。  彼は再びコツコツと部屋の中を 歩き廻つた。  しかしその歩みは前とちがつた 歩みである。  いつも新しい研究の曙光を見出 しかけたときのやうな力強さを彼 は心のうちに見出した。 「さうだ、お父さんの復讎を遂げ る日が近づいたのだ!」  そのとき突然訪問者を告げるベ ルの音がけたゝましく嗚りひびい た。  アキラは始めて現實の自分に歸 つて、私設テレビジョンのスクリ ーンを見上げた。  End  Data  トツプ見出し:   政府の焦慮を尻目に   樞府腰を据ゑる   要求を容れるまでは   委員の指名も審議もせぬ  廣告:   コクチゲン   脚氣にネオクライヱキス  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月七日(木曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年7月24日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年07月31日  $Id: gc15.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $