Title  グリーン・カード 11  緑の札 11  ----五十年後の社會----  懸賞當選映畫小説  Note  大阪朝日新聞 夕刊  昭和五年八月一日(金曜日)  Author  石原榮三郎 原作  小島善太郎 畫  Subtitle 【甦】  蘇る呪れの日 一  Description  アキラは大きな金庫の扉に設置 された七つのボタンを、五つだけ 押した。----と、金庫の前に立つ てゐるアキラの身體がすーと地下 に消えたのである。同時に金庫の 底が二つに割れて、内部から一つ の箱が落ちてきたのだ。  間もなく----。  アキラの姿が金庫の前に再び現 はれた。その右手には、小さな桐 の小箱が抱へ込まれてゐる。彼は その小箱をデスクの上に靜かに置 いたのだ。  〃記憶せよ、九月五日--〃  小箱には、こんな文字が記され てゐる。アキラの瞳光は、必然そ の箱の文字に吸はれて行つた。              【慟】  次第に彼の身體は、戰慄から動 哭に滑つていつたのだ。  アキラは今、哀しい----と【いふ】より は、呪はしい過去の、その日の幻  【咽んでゐるのである】 想に咽んでるのであゐる。  〃小箱の中には血にまみれた父 の遺書が祕められてゐた--〃  自殺した父の遺書だ!。妻を呪 つた男の血滴の遺書だ!。死をも つて報復を宣した血書である。  燃え上る血潮を抑へて、アキラ は小箱の中からその遺書を取り出 してみた。  小箱に祕めて十年----。  まだ一度も取り出して見なかつ た遺書である。  復讎の日に--。良心に誓つて十 年前----二十歳のアキラが小箱に 祕めた遺書であつたのだ。  それが十年後、三十歳のアキラ が、今その小箱を取り出して見る 以上、呪はれの日の決算が近づい たに違ひない。  念ふともなくアキラの頭に、今 日の日と共に映つてくるのは、十 年前の九月五日である、その日の 父であり、その日の母である。 〃甦る呪はれの日……。〃  ×、花戸健二の亊務室。  東洋航空機製作所の所長室。そ の大きいデスクの前に、所長の健 二は妻のセキ子と劇しい口論を始 めてゐる。  健二の口調は餘程激してゐた。  それに反して、セキ子の顏に はやゝともすると冷笑が浮かぶ のだ。  その冷笑を浴びる毎に、健二の 瞳光からは火華のやうな怒氣が走 つた。  東洋航空機製作所の破産を前に した醜い夫婦の爭論である。否、 それよりも、極度に女性の權利が 進出した----女性君臨の社會の縮 圖だ!。  女性の一人として妻のセキ子は その權利と自由を男性の一人であ る夫の健二に主張した。 「妻として貴郎に仕へることゝ亊 業とは又別で御座います!男のた めに女がどこまでも犠牲にならね ばならないなんて----それはもう 舊い昔話しでは御座いませんか? 妾の亊業を犧牲にしてまでもこの 製作所を救濟する亊は、絶對に考 へられない亊で御座います」  宣言的な言葉を、セキ子はいひ 切つて終つたのだ。 「それでは!?」  こゝで、健二は絶望的な男性の 最後の言葉を選んだのである。       ヽヽ 「お前はこのわしを見殺しにして でも、なほ亊業に生きようとする    ヽヽ のか?わしをこの社會から葬らう といふのか」  End  Data  トツプ見出し:   慘虐なる長沙共産軍の魔手   邦人の商店や小學校   ほとんど掠奪さる   支那人富豪三十餘名殺され   恐しい虐殺隊の活躍  廣告:   サンデー毎日 特輯増大八月三日號 定價十二錢   水むしにポンホリン 定價二〇cc ・三〇  底本::   紙名:  大阪朝日新聞 夕刊   発行:  昭和五年八月一日(金曜日) 第三版  入力::   入力者: 新渡戸 広明(info@saigyo.net)   入力機: Sharp Zaurus igeti MI-P1-A   編集機: IBM ThikPad s30 2639-42J   入力日: 2003年07月22日  校正::   校正者: 大黒谷 千弥   校正日: 2003年08月14日  $Id: gc11.txt,v 1.5 2005/09/16 02:35:24 nitobe Exp $